医薬激浪雑記 第9回 電卓de推計 「2017年度予算『変』成」

2016/11/02



 医薬激浪雑記 第9回 

 電卓de推計 「2017年度予算『変』成



  医療経済コラムニスト 尾濱 浩
 
 もう幾つかねると「師走」(しわす)です。昔はお正月も先祖の霊を弔う月とされたので、年末29日か30日にお坊さん(法師)がお寺と檀家の間を忙しく走り回ったそうです。今は主査が大量の書類をカバンに詰め込み、財務省と厚生労働省の間を忙しく走り回るので「主(査)走」(しゅわす)でしょうか。特に、今年は2017年度社会保障費の自然増超過分1400億円を切り盛りするため、いつもより多く走り回ることになりそうです。



 切り盛りとお手盛り

 「切り盛り」とは、台所を預かる者が食べ物を切り分けて器に盛ることを言い、「お手盛り」とは、自分で食べ物を好きなだけ器に盛ることを言います。年末の予算編成は、「切り盛り」でしょうか、それとも「お手盛り」でしょうか。足を出さないのが「切り盛り」であれば、足を出すのは「お手盛り」かもしれません。


▶ 取らぬ税収(62.6兆円)の皮算用


 2017年度予算は予想外に大きな足が出そうです。財務省が2016年2月に電卓を叩いた「2016年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、経済成長率が3%の場合、2017年度の歳入は67.1兆円(税収62.6兆円、その他収入4.6兆円)が見込まれています。ですが、内閣府のGDP(国内総生産)速報では、2016年4-6月期の名目GDPは 505.4兆円、前期比0.3%に過ぎません。おまけに、OECD(経済協力開発機構)は、日本の2017年度GDP成長率を0.4%と予想しています。
OECDの予想が正しければ、2017年度の名目GDPは、505.4兆円×1.004=507.4兆円前後です。税収率は名目GDPの約10%ですから、2017年度の税収は50.7兆円となります。仮に、名目GDPが3%成長した場合でも、税収は52兆円です。仮に、税収弾性値(名目GDPが1%増加したときの税収増加率)が4の場合でも、税収は56.8兆円です。財務省の電卓は、経済成長率と税収弾性値がお手盛りです。

▶ お手盛り過ぎる基礎的財政収支対象経費


  もちろん、歳出もお手盛りです。予算概算要求時点の2017年度基礎的財政収支(PB)対象経費(社会保障費を含む)は76兆8533億円です。2017年度歳入が55.3兆円(その他収入を含む)であれば、PB赤字が▲21.5兆円前後に膨らみます。ちなみに、財政再建方針が打ち出された2015年度のPB赤字は▲16.1兆円です。消費増税を再延期しても景気が上向かないので、財務省は年末の予算編成で少なくとも消費税増税分(約5兆円)を切り刻むはずです。もちろん、予算概算要求時に認めた社会保障費の自然増分6400億円のうち、財政健全化計画との差額1400億円も切り刻まれます。しかし、財務省も厚生労働省も消費税増税に伴う薬価引下げが当て外れに終わり、切り刻む手段が見当たりません。どうするのでしょうか。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)財政制度分科会は、11月中に2017年度予算編成に向けた建議(意見書)を取りまとめますが、その中身は「異例」です。



▶ 自然増超過分1400億円>特例引下げ315億円

 社会保障費の自然増超過分の切り盛りについては、「オプジーボ」の薬価特例引下げが前面に押し出されています。「オプジーボ」の2016年度売上予想額は1260億円ですから、拡大再算定ルールで薬価を最大25%引下げても▲315億円に過ぎません。差し引き▲1000億円強の目算は立っているのでしょうか。頼みの綱は、長期収載品を後発品に置換えることではないでしょうか。長期収載品を後発品に置換えることで、自然増超過分を賄う場合、どの程度の置換えが必要でしょうか。電卓を叩いてみましょう。



▶ 長期収載品2254億円=後発品置換率6.9%

 長期収載品の数量シェア1%を後発品に置換えると、867億円(長期収載品の数量シェア1%に対する金額の重み)-326億円(後発品の数量シェア1%に対する金額の重み)=541億円の節減効果が得られます。1400億円÷541億円=2.6%、867億円×2.6=2254億円となります。つまり、長期収載品2254億円を後発品に置換えれば、自然増超過分を賄えるわけです。後発品の2016年度推計数量シェアを60.8%と仮定した場合、2254億円÷326億円=6.9%、2017年度の下限目標は67.7%です。2017年央に70%中間(上限)目標が達成できれば、お釣りをもらえます。
財務省の主計官をこう説き伏せれば、「師走」を「主(査)走」に置換えなくても済みそうです。




執筆者プロフィール 

尾濱 浩(おはま ひろし)
1956年 広島県生まれ
1978年 関西大学経済学部卒業 食品業界専門紙記者を経て、流通情報専門誌の創刊に役員として携わる。
1991年 ユート・ブレーン入社。企画編集統括チーフとシニアコンサルタントを兼務。
2014年 フリーライターに転身。主に医療・医薬品業界の変化を独自の視点で切り取る執筆活動を行う。