医薬激浪雑記 第4回 電卓de推計「急性期必要病床数」

2016/06/01



医薬激浪雑記 第4回 電卓de推計「急性期必要病床数


医療経済コラムニスト 尾濱 浩

 

そして誰もいなくなった--。題名が結末ですが、読めば読むほど怖くなります。孤島に招待された10人は、大きな館で寝泊りします。個室には、童謡の歌詞が書かれた色紙が飾られています。それは10人の運命が書かれた色紙です。2025年の急性期病院は、「そして少なくなった」かもしれません。題名が結末ではありませんが、政府の「社会保障・税一体改革成案」と「2025年の医療機能別必要病床数の推計結果」を読み比べると、当確と落選を分ける急性期病院の運命が書かれています。2025年のMRも、「そして少なくなった」かもしれません。


▶  『ではないか的思考』


湯川学的に言うと、「実におもしろい」です。仮説検証とは、「もしかしたら、こうなるのではないか」「もしかしたら、このようなことが起きるのではないか」、そんな仮の答えに真の答えを出す作業です。斬新なアイデアを生み出す人たちも、湯川学的です。アイデアの基本は、関係性の分析です。関係性を逆転すると、新たな価値観が生まれ、斬新なアイデアが生まれます。例えば、「良薬、口に苦し」を逆転すると、「良薬、口に美味し」というアイデアが生まれます。

▶ 湯川学に学ぶ


膨大な情報を羅列するだけでは、過去の事象を把握できても、新たな戦略を見つけ出すことはできません。直接的原因だけでは、単なる状況の説明に終わってしまいます。動機的原因では、判断の誤りや前提の誤りを追究します。それが考え方を考える「思考プロセス」です。湯川学的に言うと、「考えるという行為は、人間に与えられた最大の楽しみだ」です。戦略に携わる者は、湯川学的であるべきです。

▶ 「上意下達」それとも・・・

やはり、「お恐れながら」とは言えないのでしょうか。それとも、「虎の威を借りた」のでしょうか。都道府県が6月中に「地域医療構想」の策定を終えます。ですが、「2025年の医療機能別必要病床数の推計結果」も、「病床区分の見直しについて(社会保障・税一体改革成案)」も、作為的に作られています。まだ、仮説の段階ですが、直観と異なる部分があります。好奇心の赴くまま、電卓を叩いてみました。仮説は、「もしかしたら、急性期病床は劇的に削減されるのではないか」です。


▶ 辻褄を合わせた作為的な推計値

「病床区分の見直しについて」によると、2025年度の改革シナリオ(パターン2)では、急性期病床の必要病床数21万床、平均在院日数9日、病床稼働率70%、退院患者数49万人/月となっています。ちなみに、「パターン2」とは、パターン1よりも急性期病床の対象を絞り込んだ改革シナリオです。これに対し、「2025年の医療機能別必要病床数の推計結果」では、急性期病床が40.1万床となっています。
この40.1万床という数字は激変緩衝材的に急性期病床21万床と地域一般病床21万床を積算し、少々甘めに味付け(病床削減)したものと考えらえます。


▶ 作為を隠す作為的な推計値

前者では月に49万人が退院するわけですから、年間588万人です。平均在院日数が9日、必要病床数が21万床ということは、1床当たり41回転/年(365÷9)、潜在病床数は861万床(21万×41)になります。もちろん、病床稼働率は、(588万人+21万床)÷861万床=70.7%です。同様に、後者の潜在病床数は1644万床(40.1万×41)、病床稼働率は37.0%です。その差783万床はどのような影響をもたらすでしょうか。急性期病床の約60%に閑古鳥が鳴くか、急性期病床の約20万床がいなくなるか、そのいずれかです。もちろん、MRの必要数も変わります。
40.1万床のうち、20万床が回復期に転換すれば、11万床+20万床=31万床となり、回復期の必要病床数が83%充足します。感情は論理的ではありません。落選ラインの急性期病院が環境に適応する選択肢は回復期か、在宅支援(200床未満)です。政府の戦略は計算式のように美しいものではありませんが、謀略ほど醜いものではありません。


▶ 急がれる「成果」による再定義

入手した情報が自分の直観と違っていれば、鵜呑みにしないことです。その背景や中身を追究する習慣を身につけるべきです。例えば、MRが病院に敬遠される理由を直接的原因だけでは解明できません。動機的原因は、「結果」にこだわり、「成果」にこだわらないことです。であれば、病院も結果にこだわります。MRの訪問規制は、感情より論理的です。情報提供活動費の節減効果が仕切価と納入価の低減要求に結び付きます。
「成果」とは何か。急性期病床は、「重症度、医療・看護必要度」で再定義されます。病院担当MRも、「重要度、医療・MR必要度」で再定義するべきではないでしょうか。新たなMRの姿が見えるはずです。




執筆者プロフィール 

尾濱 浩(おはま ひろし)
1956年 広島県生まれ
1978年 関西大学経済学部卒業 食品業界専門紙記者を経て、流通情報専門誌の創刊に役員として携わる。
1991年 ユート・ブレーン入社。企画編集統括チーフとシニアコンサルタントを兼務。
2014年 フリーライターに転身。主に医療・医薬品業界の変化を独自の視点で切り取る執筆活動を行う。