医薬激浪雑記 最終回 電卓de推計 「診療報酬改(解)定」

2017/03/01



 医薬激浪雑記 最終回 

 電卓de推計 「診療報酬改(解)定



  医療経済コラムニスト 尾濱 浩
 
 すまじきものは宮仕え――。確かに、年度末にはそう思うかもしれません。どの企業にも業績目標と事業計画があります。早めに達成することはまずありません。3月期決算であれば、1月が正月の月、2月が小の月で営業(稼働)日数が少なく、3月に追い込みをかけざるを得ないからです。お役所が年度末に道路を掘り起こすのも、予算を消化せざるを得ないからです。厚生労働省は、どうでしょうか。予算は余っていないはずですから、「忙中閑あり」かもしれません。財務省は、どうでしょうか。年末の予算編成時に予算を削るはずですから、「忙中閑なし」かもしれません。




 マイナスサム(寒)改定

 夏目漱石は、『草枕』の中で、「兎角(とかく)この世は住みにくい」と述べています。もちろん、ウサギにツノはありません。中国の古典小説『述異記』では、あり得ないこと、起こり得ないことを指します。つまり、漱石が用いた「兎角」は当て字です。しかし、薬価改定財源=診療報酬改定財源という等式は、「兎角」の方が相応しいかもしれません。「馬角」(ばかく)ですが、償還価格(薬価・材料価格)と市場実勢価格の乖離を予算未消化とみなすのであれば、診療報酬改定を年度末に施行し、年度初めの4月1日に遡及適用すれば、予算の「未」を消化できます。方便とはそういうものです。とにかく「削る」より、ともかく「適る」ではないでしょうか。



▶ リデザインとリデュース


 「経済・財政再生計画 改革工程表」(2015年12月24日)の行間には、「2018年度は集中改革期間の最終年度であり、第7次医療計画(2018年度~2023年度)と第7期介護保険事業計画(2018年度~2020年度)の初年度であり、不退転の決意をもって医療費適正化に取組み、社会保障関係費の伸びを5000億円に抑えるべきである」と書かれています。ディスインセンティブは、①急性期(7対1入院基本料)病床数・患者数、②後発品の使用割合(政府目標)、③保険薬局の収益状況(安全余裕率)です。もちろん、進展がなければ、「適正化の余地あり」と判断され、年末の予算編成過程で「改定率(小数点第一位)」が決まります。もちろん、点数表は「減算」「厳格」です。
厚生労働省は医療提供体制の「リデザイン(再設計)」を志向していますが、財務省は診療報酬の「リデュース(削減・縮小)」を志向しています。診療報酬改定とは、公共料金の見直しであり、プラス改定(=人為増)は「兎角」ということです。

▶ 改定年と非改定年


 2017年度医療費の推計値は44兆4097億円、増加額は8641億円、増加率は1.98%です。改定年の確定値をみると、2012年度が6123億円増(1.59%増)、2014年度が7461億円増(1.86%増)です。つまり、実質マイナス改定(=人為減)が当該年度の増加額を6000億円~7000億円に抑えたわけです。非改定年(2011年度~2015年度)の増加額が1兆1940億円ですから、改定年に▲4940億円~▲5940億円の削減効果を期待できるわけです。「毎年なら・・・」と考えたわけです。



▶ 人為増と人為減

 仮に、2017年度薬剤費を9兆2610億円(詳細は第12回を参照)、乖離率を8.036%と仮定すると、薬価引下げ額(調整幅を含む)は▲5590億円(医療費ベース▲1.26%)です。仮に、材料価格の引下げ率を過去3回の平均値▲0.093と仮定すると、薬剤費等引下げ率は▲1.35%(▲5995億円)です。仮に、名目(本体)改定率を+0.1%(+444億円)と仮定すると、実質改定率は▲1.25%(▲5551億円)です。
結果、2018年度の推計医療費は、44兆4097億円+1兆1940億円(自然増)+444億円(名目改定)-5551億円(実質改定)=45兆930億円前後、増加額は6833億円増前後、増加率は1.54%前後とみられます。診療報酬改定とは、「人為増」ではなく「人為減」です。





▶ 適正効果額と改定財源

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ある落語家が後輩から食事をおごってくれと頼まれ、「無い袖は振れない」と断ります。その後輩は、「俺が貸すからおごってくれ」と返します。厚生労働省は落語家(財務省)の後輩になれるでしょうか。つまり、医療費適正効果額を貸して、改定財源をおごってもらうのです。例えば、長期収載品を後発品に置換えることで1%当たり▲541億円の医療費適正効果額を得られます。例えば、後期高齢者を在宅医療・介護に置換えることで1人当たり▲737万9760円の医療費適正効果額を得られます。
安倍晋三総理大臣と麻生太郎財務大臣が景気回復策のお手本にする高橋是清(第20代内閣総理大臣)は、こう述べています。「一足す一が二、二足す二が四だと思い込んでいる秀才には、生きた財政は分からないものだよ」。とにかく「削る」より、ともかく「作る」ではないでしょうか。

執筆者プロフィール 

尾濱 浩(おはま ひろし)
1956年 広島県生まれ
1978年 関西大学経済学部卒業 食品業界専門紙記者を経て、流通情報専門誌の創刊に役員として携わる。
1991年 ユート・ブレーン入社。企画編集統括チーフとシニアコンサルタントを兼務。
2014年 フリーライターに転身。主に医療・医薬品業界の変化を独自の視点で切り取る執筆活動を行う。