医薬激浪雑記 第10回 電卓de推計 「ゆく医療費 くる医療費」

2016/12/06



 医薬激浪雑記 第10回 

 電卓de推計 「ゆく医療費 くる医療費



  医療経済コラムニスト 尾濱 浩
 
 「ゆく年くる年」とは、往く年は追わず、来る年は拒まずという意味でしょうか。孟子にあやかれば、過ぎ去る年をくよくよ考えるよりも、来る年を晴れ晴れ考え、大切にしたほうがよいという意味です。お金も同じです。お金が自分から離れることをくよくよ考えてはいけません。お金が次の誰かに渡れば、次の誰かを豊かにし、また次の誰かに渡れば、また次の誰かを豊かにし、その繰り返しで皆にお金が行き渡れば、日本に繁栄をもたらします。おそらく、お金を「お足」と呼ぶのはそのためでしょう。



 お足の数え方

 「足」という字には、「悪し」という意味があります。遠い先人は外出時に靴や履物を履く習慣がなかったので、「足」に泥が付く=「汚い」=「悪し」に転じたようです。また、「お足」=「お金」という意味もあります。つまり、「足が出る」とは「お金が悪し」です。逆に、「足が出ない」とは「お金が善し」でしょう。
しかし、財務省と厚生労働省では、「お足を数える」と言わないようです。


▶ (所得税+消費税)-法人税=2015年度税収


 2015年度の税収は56兆2854億円(2兆3147億円増)で、24年ぶりに高水準を確保したというのが、マスコミの見解です。2015年度の名目GDP増加率は2.2%ですから、税収が増えるのは当たり前です。税収割合は名目GDPの約10%ですが、2015年度は11.2%です。税収別にみると、所得税(17兆8071億円)が2171億円、消費税(17兆4263億円)が3143億円上振れし、法人税(10兆8274億円)が2042億円下振れしています。つまり、企業収益の伸び悩みが法人税収の減少に結び付き、所得税収や消費税収の増加を減殺し、全体の税収を押し下げたというのが、正しい見解です。


▶ 57.6兆円-サバ読み1兆円=2016年度税収


 2016年度の税収は、前年度比1兆3186億円増(当初予算比3兆790億円増)、57兆6040億円が見込まれています。財務省の電卓の叩き方を確かめてみましょう。
税収の計算式は、「名目GDP×税率×税収弾性値」です。「税収弾性値」とは、経済成長により税収がどの程度増えるかを示す値で、GDPが1%変化し、税収も1%変化すれば「1」となります。財務省は、「1.1」に設定しています。つまり、
(500.5兆円×1.015)×0.112×1.0165=57兆8356億円≒57兆6040億円
です。名目GDP増加率「1.5%」と税収割合「11.2%」がサバ読みです。名目GDPと税収は相関性が高く、名目GDPが増えると税収も増えますが、名目GDPが減ると税収も減ります。2016年4-6月期の名目GDP増加率は0.3%です。税収は増えるでしょうか、減るでしょうか。案の定、2016年4-9月期(上期)の税収は15兆9525億円、前年同期比4.8%減です。全体の税収は1兆円前後下振れするはずです。



▶ サバ読み多め2015年度医療費42.3兆円

 さて、厚生労働省が電卓を叩いた2015年度の概算医療費は約41.5兆円、前年度と比べ金額で約1.51兆円増、伸長率で3.8%増と大幅な伸びを示しています。概算医療費とは、労災・全額自費等の費用を含まない速報値で、国民医療費の約98%に相当します。高額なC型肝炎治療薬が調剤医療費を約6800億円(9.4%)押し上げたことが主な理由です。労災・全額自費等を含めた2015年度推計医療費は約42.3兆円ですが、2015年度予算案では約43兆円が見込まれていたので、差し引き約7000億円もサバを読んでいたことになります。国庫負担額に置換えると、約1813億円です。
 2015年度は社会保障関係費の自然増に「上限キャップ」(3年間で1.5兆円、年平均0.5兆円)を被せた初年度です。これが非改定年サバ読み多め医療費の真相です。


▶ サバ読み控えめ2017年度医療費44.2兆円

 2016年度の推計医療費は43兆3212億円です。前年度比2.4%増(1兆円増)ですから、さほどサバを読んでいないことが分かります。というよりも、薬価を大幅に引下げるつもりだったので、サバを読む必要がなかったのです。
2017年度はどうでしょうか。2017年度の推計医療費は44兆4722億円が見込まれています。伸長率で2.7%増、金額で1.15兆円増(国庫負担0.3兆円増)ですから、サバの読み方は控えめです。正確には、サバを読めなかったのです。2013年度から2015年度まで、仮に予算計上(概算要求)した自然増分は1.8兆円(年平均6000億円)ですが、実際に予算計上(予算案)した自然増分は1.51兆円(年平均5000億円)です。これが、「2017年度の社会保障関係費についても、次年度に負担を先送りすることなく、その伸びを 5000 億円に抑えるべきである」とする根拠です。社会保障費の自然増1400億円の圧縮要求は、薬価毎年改定の伏線です。是が非でも圧縮しなければなりません。ですが、自然増の圧縮を議論するのは当初予算だけです。サバの読み違いは、補正予算で調整できます。
おそらく、2017年度の確度の高い推計医療費は、サバ読み分1500億円と「オプジーボ」特例拡大再算定分750億円を差引いた44兆2472億円前後です。当たるか外れるかは、2017年度概算医療費が公表される2018年秋までのお楽しみです。
来る年を晴れ晴れ考え、大切に過ごしましょう。



執筆者プロフィール 

尾濱 浩(おはま ひろし)
1956年 広島県生まれ
1978年 関西大学経済学部卒業 食品業界専門紙記者を経て、流通情報専門誌の創刊に役員として携わる。
1991年 ユート・ブレーン入社。企画編集統括チーフとシニアコンサルタントを兼務。
2014年 フリーライターに転身。主に医療・医薬品業界の変化を独自の視点で切り取る執筆活動を行う。