医薬激浪雑記 第7回 電卓de推計 「院外処方率と処方せん受取率」

2016/08/02



 医薬激浪雑記 第7回 

 電卓de推計 「院外処方率と処方院外処方率と処方せん受取率せん受取率



  医療経済コラムニスト 尾濱 浩
 
 秋が旬の魚と言えば、やはり秋刀魚(サンマ)でしょう。脂の乗った秋刀魚は炭火焼に限りますが、あの香ばしい煙は住宅街で煙たがられます。というわけで、厚労放送協会と日薬テレビが秋刀魚(投薬)を食する場所について調査した結果、2015年6月時点の「外食率」が前者(歯科を含む院外処方率)で70.7%、後者(処方せん受取率)で67.6%を占めたそうです。入店前(処方せん料算定回数)と入店後(処方せん受付枚数)の調査ですから、3.1ポイントの差はお食事券(処方せん)の有効期限切れとも受け取れますが、なぜか厚労放送協会の全数が日薬テレビの全数より小さいのです。秋刀魚ですから鯖(サバ)を読めるはずがありません。この誤差は苦いでしょうか、しょっぱいでしょうか。


 誤差の正体

 嘘には3種類ある。一つは嘘、次に大嘘、そして統計だ――。イギリスで首相を2期務めたベンジャミン・ディズレーリは、「統計=事実とは限らないよ、嘘かもしれないよ」と注意を促しています。統計には、「客観的なデータ」というイメージがあるので、普通の人は統計=事実と捉えます。しかし、統計は計算の方法や標本の取り方で結果を変えることができます。つまり、統計で黒を白に変えることもできるわけです。ディズレーリはそんな現実をこの言葉に託したのでしょう。


▶ 誤差のない全数調査


 統計的にデータ解析された情報は、どのような場合でも、母集団の姿を正確に捉えていなければなりません。全数調査が不可能な場合や、時間・費用が制限される場合は、標本調査 が行われます。ビックデータ前夜の統計は母集団から一部を抽出した標本の特性を把握し、母集団の姿を推定する標本調査が主流でしたが、ビックデータ時代の統計では母集団全てを解析できるので、母集団と標本が等しい関係にある全数調査が主流です。もちろん、全数調査には、標本調査で生じる「標本誤差」がありません。つまり、全体の結果に加え、男女別の結果や地域別の結果、そして院外処方の結果なども統計として利用できるわけです。

▶ 誤差のある全数調査


   厚生労働省の「社会医療診療行為別調査」はどうでしょうか。電子レセプト請求の猶予措置が2015年3月診療分で終了し、2015年4月診療分から、①手書きレセプトの場合、②常勤医師が全て65歳以上の場合を除いて電子レセプト請求に切り替わりました。2015年5月請求分の普及状況によると、病院、薬局とも99.9%、診療所が97.9%、歯科診療所が96.0%で、必ずしも「全数」とは言えません。
 ですが、厚生労働省は、2015年6月審査分の調査から、「全ての集計対象をレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)に蓄積された診療報酬明細書及び調剤報酬明細書とし、収集による統計調査を行わないので、名称を社会医療診療行為別統計へ変更した」と注釈しています。全数調査を「悉皆(しっかい)調査」とも呼びますが、今回の統計調査は、「失敗(しっぱい)調査」かもしれません。電卓を叩いてみましょう。



▶ あり得ない「処方せん受取り過ぎ率」

 その理由は、2015年6月審査分「院外処方率」(厚生労働省)と2015年6月調剤分「処方せん受取率」(日本薬剤師会)を比較すれば明らかです。本来、院外処方率≒処方せん受取率という関係にあるはずです。

  <計算式>

  院外処方率=処方せん料の算定回数÷処方料と処方せん料の算定回数×100
  処方せん受取率=処方せんの受付枚数÷外来投薬対象者の診療延べ日数(推計)×100
 
 院外処方率70.7%(病院+診療所+歯科診療所)>処方せん受取率67.6%(同)=+3.1ポイントの差は処方せんの有効期限切れや金銭問題等による「処方せん受取れない率」とも類推できます。ですが、処方せん料の算定回数6062万9858回<処方せんの受付枚数6590万8623枚=△8.0ポイントの差はどう類推すればよいのでしょうか。「処方せん受取り過ぎ率」はあり得ません。
もちろん、各指標にも誤差が潜んでいるはずですが、2015年6月時点の「投薬率(仮)」は医科67.8%(日薬67.5%)・歯科10.3%(同10.4%)、「処方せん受取率(仮)」は67.3%(同67.6%)ですから、分業率統計に大きな支障はなさそうです。



▶ 1本欲しい医療費分析を支える「街頭の柱」

 全数調査は、他の統計に基準となる数値を提供するなど統計の正確性を担保するために必要です。例えば、5年ごとに行われる「国勢調査」の統計は、日本の現在人口から将来人口を推計する基礎とされており、国勢調査の結果が得られるごとに、推計の基礎(ベンチマーク)が見直されています。「処方せん受取率」も「社会医療診療行為別調査」の結果が得られるごとにベンチマーク(投薬率)が見直されています。もちろん、名称が変わってもベンチマークであることに変わりありません。手書きレセプトが抜けているのは、ほんのわずかな手抜かりでしょうか。
 ウィンストン・チャーチルはこう述べています。統計とは、街灯の柱と酒を飲むようなものである。照明というより、支え棒としてのほうが活用されている――。



執筆者プロフィール 

尾濱 浩(おはま ひろし)
1956年 広島県生まれ
1978年 関西大学経済学部卒業 食品業界専門紙記者を経て、流通情報専門誌の創刊に役員として携わる。
1991年 ユート・ブレーン入社。企画編集統括チーフとシニアコンサルタントを兼務。
2014年 フリーライターに転身。主に医療・医薬品業界の変化を独自の視点で切り取る執筆活動を行う。