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第27回 ガイドライン前後の製薬企業の情報提供について①
2019/06/21

第27回 ガイドライン前後の製薬企業の情報提供について①
皆様、【Oncology MR Training Project】主宰の高橋洋明です。今回も本コラムをご覧くださり、ありがとうございます。
これまで本コラムでは、薬剤師向けのアンケート結果をご紹介し、現状のMR活動に対する薬剤師の意識やMR活動の評価ポイントや改善ポイントを見てまいりました。
一方、製薬業界では2019年4月1日より医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(以下ガイドライン)が施行されました。2019年5月26日現在、各製薬企業のガイドライン対応の取り組みが進行中であり、「こう対応すれば万全」というものもありません。
ですが、このガイドラインの施行に伴い、製薬企業の医薬品の適正使用情報の提供活動がどのように変化したのか?や、その活動の変化は薬剤師からの評価に影響があるのか?をしっかり検討することは意義があることです。製薬企業の情報提供活動に対する医療者からの評価なしに、適正使用情報の提供の質を向上させることはできないからです。
そこで今回、ガイドラインの施行前後における薬剤師による製薬企業への評価を比較検討してみます。そのことで、製薬企業のガイドライン対応がうまく行っているのかどうかが検討可能になることでしょう。
データはネグジット総研様が実施されたアンケート結果です。アンケート名は「薬剤師対象販売情報提供活動ガイドライン現状確認調査(3月時点)」です。
この結果から、ガイドライン対応としてどのようなことがポイントになるのかを検討してみましょう。
◆ 今回の調査について
今回ご紹介する調査の概要をお知らせいたします。
調査名:「薬剤師対象 販売情報提供活動ガイドライン 現状確認調査(3月時点) ― 7社比較 ―」
サンプル数:薬剤師200名(薬局勤務100名、病院勤務100名)
調査期間:2019年4月18日~30日
調査方法:WEBアンケート
調査実施機関:(株)ネグジット総研 薬剤師調査MMPR
◆ 2019年1月~3月末までの各製薬企業の情報提供活動の状況
このアンケートでは、製薬企業7社の医薬品の情報提供活動で、実際にあった不適切な情報提供活動として疑われるケースの有無を確認しました。
<薬局向け>(複数回答あり サンプル数100)
<病院向け>(複数回答あり サンプル数100)
今回のアンケート結果から、大変残念ながら不適切な情報提供活動が疑われるケースが散見されていることが明らかとなりました。
製薬企業の適正使用情報は、ガイドライン施行前であっても適切になされるべきであるのはいうまでもありません。
ガイドラインに限らず、医療用医薬品の広告活動監視モニター事業でもMR活動は適切かどうかを監査されています。このモニター事業も製薬業界に知られているはずなのですが、それでも不適切な情報提供活動がなされているということは、製薬業界やMRや所長がモニター制度を甘く見ているということの証拠かもしれません。
◆ 今回の質問の結果から見直すべきことは?
今回の質問の結果からは、大きくは2つの改善すべきポイントがあります。
1つはMRが、もう1つは製薬企業の本社です。
1つ目のMRの改善ポイントの例を、下記に示します。
これらの不適切な情報提供をしてしまう背景には
「高い有効性の医薬品の方が売れる」
「有効性を訴求しなければ、医療者から自社医薬品を処方してもらえない」
などの誤解があるということです。
薬剤師や医師に直接話を伺うと、医薬品の処方の決め手になるのは有効性よりも先んじて
「安価である」
「期待通りの効果が発揮される」
「副作用があっても対応がしやすい」
「使い慣れている」
「使い勝手が良い」
「Evidenceがある」
などの話が出てきます。頻繁に聞きます。この点を理解できている製薬企業はどれくらいあるでしょうか?
医薬品の安全性に関する情報は、上記の
「使い慣れている」
「使い勝手が良い」
という点に密接に関わる情報です。
この情報提供なしに、その医薬品が医療者にとって汎用される使いやすい医薬品のポジショニングを得ることはないでしょう。
そして、そのポジションが得られない医薬品は、汎用されることもないでしょう。
ところが、その話が論理的にはあり得たとしても、臨床で本当に効果や安全性に寄与するのか?は、全くの別問題だったりします。それらの不適切な事例は、平成30年度医療用医薬品の広告活動監視モニター事業報告書
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000205038.pdf)で報告されています。どのようなディテーリングが不適切なのか、MRや所長、プロダクトマネージャーは今一度ご確認されることをお勧めします。
また、科学的・客観的ではない情報提供の機会は、MRであれば実は身近にありえます。
医師・薬剤師から
「その薬は、このあたりだったらどの病院で採用されているの?」
「○○先生は、その薬を使っているの?」
「○○先生は、その薬についてどう言っているの?」
「その薬で△△と思われる副作用が出たかもしれないんだけど、添付文書やインタビューフォームなどにその△△の発現頻度も対策も書いていないんだよね。○○先生は、△△の経験はない?その時○○先生は、どうやって対応したの?」
などと尋ねられることは、MRにとっては馴染みがある問い合わせです。
しかも、医師・薬剤師にとっては毎日の診療上必要な情報でもあります。
ここは製薬企業各社の対応が分かれるところかもしれませんが、MRとしては会社の方針に準拠しながら対応すべきでしょう。
科学的・客観的ではない情報が提供されるときは、
・そのMRが情報の内容や医療者と患者さんに及ぼす影響を正しく認識できていないとき
・製薬企業の本社が、医療者からの問い合わせに対する適切な対応のスキームを適切に整備できていないとき
などとして散見されています。
また、科学的・客観的ではない情報提供の一端を製薬企業の本社やプロダクトマネージャーが担ってしまっている事例もあり得ます。
次回は、その点を一緒に見て行きましょう。
皆様、【Oncology MR Training Project】主宰の高橋洋明です。今回も本コラムをご覧くださり、ありがとうございます。
これまで本コラムでは、薬剤師向けのアンケート結果をご紹介し、現状のMR活動に対する薬剤師の意識やMR活動の評価ポイントや改善ポイントを見てまいりました。
一方、製薬業界では2019年4月1日より医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(以下ガイドライン)が施行されました。2019年5月26日現在、各製薬企業のガイドライン対応の取り組みが進行中であり、「こう対応すれば万全」というものもありません。
ですが、このガイドラインの施行に伴い、製薬企業の医薬品の適正使用情報の提供活動がどのように変化したのか?や、その活動の変化は薬剤師からの評価に影響があるのか?をしっかり検討することは意義があることです。製薬企業の情報提供活動に対する医療者からの評価なしに、適正使用情報の提供の質を向上させることはできないからです。
そこで今回、ガイドラインの施行前後における薬剤師による製薬企業への評価を比較検討してみます。そのことで、製薬企業のガイドライン対応がうまく行っているのかどうかが検討可能になることでしょう。
データはネグジット総研様が実施されたアンケート結果です。アンケート名は「薬剤師対象販売情報提供活動ガイドライン現状確認調査(3月時点)」です。
この結果から、ガイドライン対応としてどのようなことがポイントになるのかを検討してみましょう。
◆ 今回の調査について
今回ご紹介する調査の概要をお知らせいたします。
調査名:「薬剤師対象 販売情報提供活動ガイドライン 現状確認調査(3月時点) ― 7社比較 ―」
サンプル数:薬剤師200名(薬局勤務100名、病院勤務100名)
調査期間:2019年4月18日~30日
調査方法:WEBアンケート
調査実施機関:(株)ネグジット総研 薬剤師調査MMPR
◆ 2019年1月~3月末までの各製薬企業の情報提供活動の状況
このアンケートでは、製薬企業7社の医薬品の情報提供活動で、実際にあった不適切な情報提供活動として疑われるケースの有無を確認しました。
<薬局向け>(複数回答あり サンプル数100)
カテゴリ | 最小値 | 最大値 |
情報を求めていないが「承認外の効能・効果、用法・用量等の情報」があった | 0 | 4 |
安全性の情報不足など、恣意的な情報だった | 0 | 3 |
科学的・客観的な根拠に基づかない、不正確な情報だった | 0 | 1 |
資材等に引用された情報に、引用元が明記されていなかった | 0 | 3 |
資材等に引用された社外の調査研究に、伏せられた製薬企業の関与があった | 0 | 1 |
すべて該当なし | 91 | 100 |
その他 | 0 | 4 |
<病院向け>(複数回答あり サンプル数100)
カテゴリ | 最小値 | 最大値 |
情報を求めていないが「承認外の効能・効果、用法・用量等の情報」があった | 1 | 3 |
安全性の情報不足など、恣意的な情報だった | 0 | 3 |
科学的・客観的な根拠に基づかない、不正確な情報だった | 0 | 1 |
資材等に引用された情報に、引用元が明記されていなかった | 0 | 1 |
資材等に引用された社外の調査研究に、伏せられた製薬企業の関与があった | 0 | 1 |
すべて該当なし | 94 | 100 |
その他 | 0 | 1 |
今回のアンケート結果から、大変残念ながら不適切な情報提供活動が疑われるケースが散見されていることが明らかとなりました。
製薬企業の適正使用情報は、ガイドライン施行前であっても適切になされるべきであるのはいうまでもありません。
ガイドラインに限らず、医療用医薬品の広告活動監視モニター事業でもMR活動は適切かどうかを監査されています。このモニター事業も製薬業界に知られているはずなのですが、それでも不適切な情報提供活動がなされているということは、製薬業界やMRや所長がモニター制度を甘く見ているということの証拠かもしれません。
◆ 今回の質問の結果から見直すべきことは?
今回の質問の結果からは、大きくは2つの改善すべきポイントがあります。
1つはMRが、もう1つは製薬企業の本社です。
1つ目のMRの改善ポイントの例を、下記に示します。
●承認外の効能・効果、用法・用量等の情報は提供しない
→ オフラベルの情報は、MRとしては提供を慎むことが原則でしょう。MRが自ら率先して医療者に提供することは、日本の医療制度に対しても、現在の日本の社会保障費の観点からも不適切です。とは言ってもどうしてもその情報を必要とする医療機関もあります。例えば大学病院などで高度な情報を必要とする施設の医療者や、来院する外国人患者さんに対して医療を提供する場合は、従来の適正使用情報では不十分というケースもあり得ます。このような場合は、製薬企業各社が制定した、しかるべきプロセスで情報提供すべきです。
●安全性に関する情報は最優先で医療者に提供する
→ これも当然の活動です。しかし、MRのディテーリングでは、安全性の情報提供よりも有効性のディテーリングを重視する傾向が見て取れます。これは、私がMR47名と同行した際、多くのMRのディテーリングを観察して得た感触とも合致します。
→ オフラベルの情報は、MRとしては提供を慎むことが原則でしょう。MRが自ら率先して医療者に提供することは、日本の医療制度に対しても、現在の日本の社会保障費の観点からも不適切です。とは言ってもどうしてもその情報を必要とする医療機関もあります。例えば大学病院などで高度な情報を必要とする施設の医療者や、来院する外国人患者さんに対して医療を提供する場合は、従来の適正使用情報では不十分というケースもあり得ます。このような場合は、製薬企業各社が制定した、しかるべきプロセスで情報提供すべきです。
●安全性に関する情報は最優先で医療者に提供する
→ これも当然の活動です。しかし、MRのディテーリングでは、安全性の情報提供よりも有効性のディテーリングを重視する傾向が見て取れます。これは、私がMR47名と同行した際、多くのMRのディテーリングを観察して得た感触とも合致します。
これらの不適切な情報提供をしてしまう背景には
「高い有効性の医薬品の方が売れる」
「有効性を訴求しなければ、医療者から自社医薬品を処方してもらえない」
などの誤解があるということです。
薬剤師や医師に直接話を伺うと、医薬品の処方の決め手になるのは有効性よりも先んじて
「安価である」
「期待通りの効果が発揮される」
「副作用があっても対応がしやすい」
「使い慣れている」
「使い勝手が良い」
「Evidenceがある」
などの話が出てきます。頻繁に聞きます。この点を理解できている製薬企業はどれくらいあるでしょうか?
医薬品の安全性に関する情報は、上記の
「使い慣れている」
「使い勝手が良い」
という点に密接に関わる情報です。
この情報提供なしに、その医薬品が医療者にとって汎用される使いやすい医薬品のポジショニングを得ることはないでしょう。
そして、そのポジションが得られない医薬品は、汎用されることもないでしょう。
●科学的・客観的な情報
→ MRは日頃の活動から、話しやすい内容や処方につながりやすいディテーリングをしがちです。ですが、医師・薬剤師から難しい時折薬理作用や作用機序などの説明を求められることもあります。そのような時MRは、自社製品に都合が良い説明することで他剤との差別化を図ろうとすることもあります。
→ MRは日頃の活動から、話しやすい内容や処方につながりやすいディテーリングをしがちです。ですが、医師・薬剤師から難しい時折薬理作用や作用機序などの説明を求められることもあります。そのような時MRは、自社製品に都合が良い説明することで他剤との差別化を図ろうとすることもあります。
ところが、その話が論理的にはあり得たとしても、臨床で本当に効果や安全性に寄与するのか?は、全くの別問題だったりします。それらの不適切な事例は、平成30年度医療用医薬品の広告活動監視モニター事業報告書
(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000205038.pdf)で報告されています。どのようなディテーリングが不適切なのか、MRや所長、プロダクトマネージャーは今一度ご確認されることをお勧めします。
また、科学的・客観的ではない情報提供の機会は、MRであれば実は身近にありえます。
医師・薬剤師から
「その薬は、このあたりだったらどの病院で採用されているの?」
「○○先生は、その薬を使っているの?」
「○○先生は、その薬についてどう言っているの?」
「その薬で△△と思われる副作用が出たかもしれないんだけど、添付文書やインタビューフォームなどにその△△の発現頻度も対策も書いていないんだよね。○○先生は、△△の経験はない?その時○○先生は、どうやって対応したの?」
などと尋ねられることは、MRにとっては馴染みがある問い合わせです。
しかも、医師・薬剤師にとっては毎日の診療上必要な情報でもあります。
ここは製薬企業各社の対応が分かれるところかもしれませんが、MRとしては会社の方針に準拠しながら対応すべきでしょう。
科学的・客観的ではない情報が提供されるときは、
・そのMRが情報の内容や医療者と患者さんに及ぼす影響を正しく認識できていないとき
・製薬企業の本社が、医療者からの問い合わせに対する適切な対応のスキームを適切に整備できていないとき
などとして散見されています。
また、科学的・客観的ではない情報提供の一端を製薬企業の本社やプロダクトマネージャーが担ってしまっている事例もあり得ます。
次回は、その点を一緒に見て行きましょう。

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