第15回 GPSP省令の改正と医療ビッグデータと調剤薬局

2018/07/31

 
 皆様、【Oncology MR Training Project】主宰の高橋洋明です。
 本コラムをご覧くださり、ありがとうございます。
 今回は、2018年4月に改正されましたGPSP省令(製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令)と、それに関わる医療ビッグデータ、そして調剤薬局について皆さまと一緒に見てまいります。




 今回のGPSP省令改正について、2018年7月21日(土)の東京都内で開催された日本医薬品情報学会(JASDI)の平成30年度第1回JASDIフォーラムにて、PMDA組織運営マネジメント役の俵木登美子様がわかりやすく解説してくれました。その内容を皆さまにも共有します。

 まず、今回のGPSP省令の改正は、日本の国家戦略の一環です。
未来投資戦略2017、2018に「医療情報データベース(MID-NET)を連携させ、開発から安全対策までの一連の過程で、より大規模なリアルワールドデータの活用を推進する」旨が盛り込まれています。
 また、このGPSP省令の改正に先立ち、2012年のRMP(Risk Management Plan)の指針にも「・・・(中略)医療情報データベースを活用した薬剤疫学的手法も含め・・・(略)」との記述もありました。すなわち、日本は当時から医療ビッグデータを活用した医薬品安全性監視活動を検討していたということです。

これらの過程を経て、今回2018年4月にGPSP省令が改正、施行されました。
皆さんご存知の通り、医薬品の承認後、製造販売と並行して
・安全性定期報告(半年ごと、1年ごと)
・自発報告(副作用報告、不具合報告・研究報告・海外措置報告等)
・製造販売後調査等
が行われます。

 この中の「製造販売後調査等」が今回のGPSP省令で改正されました。具体的には
・製造販売後調査等
  1. 使用成績調査
   1-1. 一般使用成績調査(新規:医薬品等を使用する者の条件を定めることなく行う
     「使用成績調査」に名称を付した)
   1-2. 特定使用成績調査
   1-3. 使用成績比較調査(新規:従来からある調査だが、位置付けが明確になった。
     特定の医薬品を使用する者の情報と当該医薬品を使用しない者の情報とを比較
       することによって行う「使用成績調査」に名称を付した)
  2. 製造販売後データベース調査
  3. 製造販売後臨床試験

と変更されました。。
厚生労働省からのPDFは、次のリンクでご確認いただけます。

https://www.pmda.go.jp/files/000220721.pdf



 今回のGPSP省令の改正から新たに追加された調査で、医療情報データベースを用いた調査です。この医療情報データベースの調査を実現するために、日本政府は平成23年度から厚生労働省の事業として10拠点23病院でデータベースを構築し、PMDAにその分析システムを構築する事業を進めてきました。これがMID-NETです。



 それは、現在の副作用報告制度では下記の様な限界があるからです。
   • 医師が報告しなければ、副作用の存在そのものがわからない。
    医師も多忙なため、長期の投与の薬剤の場合、主治医が変わることもある。
   • 発生頻度がわからない。 他剤との比較、安全対策前後の比較等はできない。
   • 原疾患による症状なのか、副作用なのかが評価できない。

 例えば、ある医薬品Aを投与した際、副作用Bが発現したとしましょう。その副作用Bは稀に発現する副作用です。医薬品Aを投与した症例報告や副作用の自発報告等で報告されている患者数が数十人だとします。この発現頻度は何%でしょうか?
 答えはわかりませんね。なぜなら医薬品Aを処方した患者数という母数がないからです。
 ですが、これはMID-NETに医薬品Aを処方された患者さんと、副作用Bを発現した患者さんが全て登録されていれば、ある程度の確からしさを持って副作用Bの発現頻度が推測可能になります。この様な検討ができるのが製造販売後データベース調査なのです。


 
 下記にその例をお示しします。
  •他剤との比較
  (副作用の発現割合:副作用と正確な使用患者数の比から検討できるようになる)   •原疾患による症状発現との比較
  (症状の発生割合:症状と正確な使用患者数の比から検討できるようになる)
  •安全対策の効果の検証
  (副作用の発生割合:副作用と正確な使用患者数の比から検討できるようになる)


 この製造販売後データベース調査は、これまで見てきたことを踏まえれば、「これまでわからなかったことが、なんでも明らかになるんじゃないか?」と期待された方もおられるかもしれません。
  ですが、この製造販売後データベース調査は、活用しているデータベースのMID-NETの特性上、限界もあります。MID-NETの長所と限界を下記にお示しします。

  <長所>
 • 診療情報や請求情報等、多様な情報源に由来する医療情報が利用可能
 • 検査データ等のアウトカムデータが利用可能
 • ほぼリアルタイムで情報が利用可能

  <限界>
 • データが、大学病院中心で急性期患者さんが主体
 • 来院前・転院後の他の医療機関での情報等が得られないため、一人の患者さんを
  長期に追跡できない
 • 特定の医療機関を対象としているため、全国民を必ずしも代表するデータではない
 • 活用項目は、疾病、処方、検査の電子化された情報のみ。副作用、患者の特定に
  配慮が必要
 
 現在PMDAでは、MID-NETだけでなくNDBも活用し、それぞれのデータベースの特性を踏まえた上で、リサーチクエスチョンに適切に対応した活用を行っているとのことです。




 これまでの製造販売後データベース調査を振り返ってみると、副作用情報をネットワークでデータベースに集積・構築・分析が可能になれば、MRは不要になるのではないか?という懸念が出てくることと思います。

 俵木先生や、フォーラムの他の演者の先生は皆さん、「MRは必要だ」という立場でした。なぜならば、集積された情報から副作用対策の注意喚起を行うためには、製薬企業のMRが現場の医療機関に訪問し、その医薬品の適正使用を医療者にきちんと説明し、副作用の発現を最小化させる必要があるからです。

  PMDAの調査による事例を紹介します。
  ある医薬品が発売開始後、高頻度で副作用を発現しました。そこで、その注意喚起のための添付文書の改訂の実施と、その医薬品を担当するMRによる適正使用情報の提供を徹底しました。その結果、その副作用の発現頻度が急速に低下し、同種同効薬と同程度の副作用の発現頻度に低下したそうです。

 このように、副作用情報の収集はネットワークとデータベースの方が圧倒的に早く正確であったとしても、そのデータを解析した結果、患者さんに不利益にならないように医療現場に注意喚起を促すのは製薬企業とMRの役目です。この点は今後のMR活動のヒントにもなりうるでしょう。

 また、PMDAの俵木先生は、医師・薬剤師に対して
  • 新薬上市後6ヶ月間の市販直後調査で副作用が発現していないか、情報収集の
   徹底をお願いしたい
  • MID-NETやNDBを用いたデータベース調査を推進していっても、これまでの
      副作用報告の重要性は変わらない。迅速に副作用報告を収集・報告することが
      患者さんの安全確保にとって第一である
 とメッセージを送られていました。

   今回のフォーラムに来場していた薬剤師の先生と話したところ、印象的だったのは
  • 今までMID-NET等を活用すれば何ができるのかが、よく分からなかった。
   今回の講演で初めてデータベース調査の意義が分かった
  • リサーチクエスチョンごとに活用するデータベースを吟味する重要性が分かった
  • MID-NETでなんでも明らかになるのではないということが初めて分かった。
      むしろ、臨床上の仮設の抽出に有用だということが分かった
などの声が多く聞かれました。逆に言えば、このような話題が薬局では乏しいということです。薬局の薬剤師だと、今回のような情報はなかなか得にくく、また馴染みも薄いので勉強する機会が乏しいとのことでした。
   このような点を製薬企業やMRがなんらかの形でフォローできれば、薬剤師の満足度は高まるでしょうし、その後の様々な企画提案や交渉ごとなどにも有益かもしれませんね。
  今回のコラムが製薬企業のMR活動にお役に立てたら嬉しいです。


 
 

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