第13回 薬局と糖尿病性腎症重症化予防の取り組み

2018/05/28

 
 皆様、【Oncology MR Training Project】主宰の高橋洋明です。 
 今回も本コラムをご覧くださり、ありがとうございます。
 今回は、地域医療における薬局の取り組みの事例として、糖尿病性腎症重症化予防を取り上げます。
 平成30年診療報酬改定における「Ⅱ 新しいニーズにも対応でき、安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実」にも、「適切な腎代替療法推進の考え方」として人工透析を新規に導入する患者さんをできる限り減らす取り組みが求められています。
 そこで、皆様と一緒に、薬局が糖尿病性腎症の重症化にどのように取り組めるか、そこに製薬企業としてどのようなサポートができるかなどを一緒に見ていきましょう。




 まず、糖尿病性腎症重症化の予防についておさらいしましょう。
 なぜ現在、国は糖尿病性腎症の重症化を予防しようとしているのでしょうか?
それは、
 •  糖尿病患者が増加しており、今後さらに増加することも予想されている
  (日本国民の高齢化、生活習慣、社会環境の変化 などに伴う)
 •  糖尿病は、重症化すると網膜症・腎症・神経障害などを引き起こすため、
  患者さんのQOLを著しく低下させ、医療経済的にも負担が増大する
  例:全腎協(http://www.zjk.or.jp/kidney-disease/expense/dialysis/)によれば、
  糖尿病性腎症の患者さんが人工透析を受けるようになると、年間約500万円前後の費用がかさむ
ためです。
 そこで日本は現在、健康日本21で新規人工透析導入患者数を減少させるべく、数値目標を掲げ取り組んでいます。
 詳細については、下記のリンクをご参照ください。
 http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000121902.pdf

 糖尿病性腎症重症化予防には、これまで糖尿病専門医や看護師、保健師、管理栄養士などが尽力してきました。一定の成果をあげている地域もありますが、全国でみれば成果の程度はバラバラのようです。
 糖尿病ネットワーク様が平成28年人口動態統計月報年計(概数)から糖尿病による死亡率の都道府県別順位(対人口10万人、2016年)を示しておられます(http://www.dm-net.co.jp/calendar/2017/027157.php)。それによれば、愛知県が糖尿病診療の地域連携の仕組みを早い時期から作って、早期発見・治療するための対策を重ねて成果に結びつけており、糖尿病による死亡率の低さで全国第1位です。
 しかし、これらの取り組みの多くは都道府県・後期高齢者医療広域連合・地域の医師会・都道府県糖尿病対策推進会議などが中心に取り組んでおり(糖尿病性腎症重症化予防プログラムでは上記の各関係者がそれぞれの役割を担い連携することが示されているので問題ないのですが)、薬局ではどのような取り組みができるのか?を耳にすることが少ないようです。
 薬局は、糖尿病性腎症重症化予防に貢献できることがないのでしょうか?




 薬局薬剤師が糖尿病性腎症重症化予防に積極的に関わっている事例としては、長野県松本市の事例があります。
 この事例は、医師と薬剤師が連携して保健指導を実施したものです。
松本市は、主治医の指示のもと、かかりつけ薬局の薬剤師が主となって服薬指導に加え、食事・運動などの生活習慣や自己管理について6ヶ月間支援しました。栄養指導は、対象者の食事を写真に撮り、管理栄養士が分析・評価し、薬剤師が薬局で説明・助言しました。
 対象となる患者さんは、2型糖尿病性腎症2期~3期で通院治療している患者さんで、主治医が実施に問題ないと判断し、「松本市国民健康保険被保険者」、「30歳、35歳および40歳以上75歳未満で、性別、治療内容は問わない」、「薬局薬剤師から本プログラムを説明され、事業参加に同意した方」という患者さんでした。
 これらの患者さんに薬剤師が関わった結果、36名中33名(92%)が6ヶ月継続して自己管理支援を終了しました。糖尿病治療薬の服薬アドヒアランスには薬剤間でばらつきがあることが「Diabetes, Obesity and Metabolism」2018年11月14日オンライン版でも明らかになっている中、薬剤師が患者さんに介入することで結果として6ヶ月間継続して治療を継続できているのは、糖尿病の重症化を防ぐことに繋がりますし、地域医療の質とアウトカムの向上に有益ですね。 
 また、この取り組みに参加した患者さんの満足度調査では、対象者が薬剤師との信頼関係が深まったと感じていました。患者さんご自身も自身の体調の変化に関心を持つようになりました。糖尿病診療では、患者さん本人に「糖尿病であることをいかに自覚させるか?」が課題の一つです。自覚症状に乏しい糖尿病であるが故に、患者さんのアドヒアランスが高まらないという嘆きが医療者から頻繁に聞かれます。そのような中、糖尿病患者さんのアドヒアランスを向上させたという結果は、注目すべき点の一つですね。
 この取り組みの詳細は、下記のリンクからご覧ください。
 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000170646.pdf



 松本市の事例を元に、製薬企業がその地域の糖尿病性腎症重症化予防プログラムにサポートできる場面はいくつか考えられます。
例えば、

 •    糖尿病性腎症重症化予防のために、その地域の医師会と薬剤師会の連携を提案
 •    糖尿病専門医と周辺の調剤薬局の連携を提案
 •    医師会と薬剤師会、糖尿病専門医と薬局がすでに連携している地域では、
   連携がよりスムーズになるように症例検討会を企画
 •    患者さんの服薬指導を患者指導箋で支援


などが考えられるでしょう。
 このような取り組みは、患者さんが糖尿病治療薬を服薬し続ける仕組み作りといえますので、結果として皆様の糖尿病治療薬の売上が脱落防止の成功に繋がり、安定した実績伸長を示すかもしれません。
 また、患者さんの服薬が継続できれば、薬局の経営も安定しますし、薬剤師にも感謝されます。そのことは、MRとの良好な関係構築にも繋がりますね。
私が所属している(公社)日本医業経営コンサルタント協会の調剤薬局研究会で薬局に関する様々な研究・検討をしていますが、調剤薬局の薬剤師には地域に積極的に関わりたい薬剤師が全国に一定数いること、そしてその地域にどのように介入していけばいいのかがわからない薬剤師も一定数いることがわかっています(調査内容は非公開)。これは、製薬企業やMRとしてはチャンスとも言えます。
 自社製品の処方を増やしてもらったり、実績を伸ばすためには、処方のクロージング以外にもできることがまだまだあるということですね。







 

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